食材絵文字「フードピクト®」の菊池さんが教えてくれたのは訪日外国人を含むすべての人が安心して食事を楽しむことの大切さだった

世界、そして日本でも多様化する食事面のニーズ。「世界で3人に1人は食べられないもの」があると言われますが、その理由は、食物アレルギー、菜食主義(ベジタリアン)、宗教や文化上の理由による食禁忌(食のタブー)などが挙げられます。訪日外国人が増えた今、飲食業界では見過ごすことができない事象の一つです。どのように対応していくべきなのでしょうか。

訪日外国人は、右肩上がりに増加していて今や年間約3,000万人。日本で生活している外国人は、総人口の2%を占めます。両親のどちらかが外国人、という子どもたちも増加し、嗜好、宗教、アレルギーの問題等、彼らが食事面で困る場面は少なくないようです。

宮崎県新富町に、これから訪日外国人が増える理由

2019年11月21日(木)、新富町総合交流センターきらりにて開催された「食材絵文字“フードピクト®”を学ぼう」。企画の主旨を、一般財団法人こゆ地域づくり推進機構(略称:こゆ財団)事務局長の高橋邦男さんはこう話します。

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▲企画主旨を説明するこゆ財団の高橋事務局長

今現在、新富町内に訪日外国人があふれている状況はありません。ですが、新富の良さを生かした新しい宿泊施設ができ、先日海外からもお客様を迎えました。またサッカークラブ“テゲバジャーロ宮崎”のスタジアムが来年完成します。アジアではJリーグ人気が沸騰中ですので、将来的に海外のお客様を増やす要因になるかもしれません。

まだ需要が少ない今のうちに、訪日外国人の受け入れ体制を整えておけば、お客様を呼び込む魅力の一つとなり、売り上げアップにもつなげることができるはずです。

食べ物かそうでないかも、わからない!? 「言葉の壁」

▲株式会社フードピクトの菊池信孝氏

この日の講師は、『株式会社フードピクト』代表取締役・菊池信孝氏。世界各国のさまざまな人たちが利用する成田空港や関西国際空港をはじめ全国100社1,500店において、食材表示ピクトグラム“フードピクト®”で訪日外国人の受け入れ支援サービスをしている会社です。

まず、菊池さんは参加者にタイ語で書かれたパッケージの商品を参加者に見せます。

「この商品は次の3つのうち、どれでしょう?」

選択肢は、①砂糖 ②洗剤 ③肥料 の3つです。

参加者は3人ずつグループになり、話し合います。パッケージに描かれた情報と言えば、まったくわからない言語の羅列とわずかなイラストのみ。これが思いのほか、苦戦します。

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▲グループで意見を出し合い、答えを選びます

グループにより答えは分かれましたが、正解は①砂糖でした。

こういうことは、訪日外国人にとって日常茶飯事。日本の商品が食べ物かそうでないかすら判断できないという「言葉の壁」があることを、参加者は痛感しました。

宗教上の理由でお酒を飲まない外国人が、来日早々にアルコール飲料をジュースと間違って飲んでしまったり。コンビニ等で同じ棚に並んでいることも少なくなくて、容易に起こりうることなんです。

他にも立ちはだかる、「文化」「理解」の壁

「言葉」の壁以外にも、住む国や地域、宗教の違い、またベジタリアンなど食の嗜好による「文化」の壁、そして日本全体としてそれらに対する理解が進んでいないという「理解」の壁について、菊池さんは指摘し、詳細な説明を続けます。

▲菊池さんの話を真剣に聞く参加者たち
  • 動物性のものを使っていないように感じる日本の食品でも、原材料名を確認すると旨味成分として動物性のエキスが使われていることも多いこと
  • ユダヤ教の人たちは動物性の食材と乳製品を一緒に食べてはいけない。厳格な禁忌を守っている人は調理場所から分けている。例えば、チーズバーガーNG、豚肉を使ったソーセージドッグNG、サーモンサンドベーグルはOK、など
  • イスラム教徒の「ハラール」フードのように、ユダヤ教徒が安心して食べられる食品であるという「コーシャ」認定マークのついた食品があるが、日本ではまだまだ少ない。ショートニングやゼラチン、ラードなどに豚が使われていたりするので、飲食店は仕様書の確認が必要

宗教的食禁忌に加えて、世界を見渡せばヴィーガンを含めいろんな形態でのベジタリアンが増加中。宮崎へ多くの人が訪れる台湾は、世界第2位のベジタリアン大国であることなどを踏まえると、対応の必要性は決して低くはありません。

壁を乗り越えるためのツール、『フードピクト®』とは?

宗教上の食禁忌もベジタリアンも、ある程度理解を深めることは必要。ですが、個人で程度の差が大きく、食を提供する側がすべてに対応するのはもはや不可能です。

そこで、お客側にも店側にもメリットをもたらすのが食材絵文字『フードピクト®』。宗教上食べられない、またアレルギーを持っていて食べられない主要な14の食材を、一目で伝わるイラストで表示しています。メニューごとに含まれる食材をフードピクト®で表せば、言葉の壁を越えて伝えることができます。

これまで接客スタッフが個別に対応していたことが、フードピクト®を表示しているだけでお客様に伝わるので、スタッフの負担は大幅に軽減。

「どんな食材が含まれているかを絵文字で表示することで、言葉の壁を回避できます。さらに、自社がどこまで対応するのかというポリシーの開示により、お客様自身に選択してもらうことができます。できることとできないことをしっかり伝えることが、現場スタッフの労力を削減し、トラブル回避につながります」。

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▲フードピクト®カードを使えば、指差しでNG食材を伝えるなどお客様とのスムーズなコミュニケーションが図れる

参考事例:ムスリム向けラーメン開発で成功したラーメン店

最後に菊池さんは、食の多様性に対応する、というだけでなく、あえてイスラム教徒(ムスリム)をターゲットにしたラーメンを作り、外国人の口コミで集客に成功した事例を紹介しました。

あるラーメン店の主人はムスリムの友人に食べさせたいと、お酒を含まないラーメンを開発。喜んだその友人がインフルエンサーとなり、今では首都圏から月に200〜300人ものムスリムが来店し、お土産ラーメンも買って帰るほど人気となりました。

何でも最初に取り組むことで話題となり、売り上げアップにつながる可能性が高いものです。ぜひチャレンジしてみてください。

参加者からの質問タイム

今回の講座参加者は、町内外の飲食店やホテルなど食のサービス業界、学校給食を担当する栄養士、養鰻業者など。

「カレーでそばアレルギーを発症したお客様がいた。チャツネに含まれる蜂蜜にそばの蜂蜜が含まれていたのかも」。

「うなぎはアレルギー対象品目ではないが、タレの材料はアレルゲンに注意する必要がある。しっかり確認していきたい」。

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職場での経験や悩みなど、講師にストレートに投げかける参加者たち

など、訪日外国人やアレルギーをもつ人の対応に関して、実体験を踏まえた質問や感想がそれぞれから聞かれました。菊池さんは、

日本の推奨アレルギーは、2019年に追加されたアーモンドを含め28品目で、世界的にも多い方ですが、すべてに完璧に対応するというのはやはり難しいです。なので、どこまで対応を行っているかをはっきり開示して、その先はお客様の判断に委ねる形がとれるように、私たちは指導をしています。

宗教上の食禁忌の場合、『食べられないもの』『食べられない肉の種類』『お酒はどこまでOKか?』という3つの質問をして、対応できるかどうかを判断できるようにしておきましょう。

と答えていました。

参加者の一人、県内の公立学校で管理栄養士として働く女性は、

「神戸市の学校でフードピクト®を採用している実績を聞けたので、早速自分の職場にも提案したい」と、喜びの表情で話してくれました。

すべては、どのお客様にも安心して食事を楽しんでもらう“おもてなし”の心で―。

食材を分かりやすく表示することでお店の信頼や満足度向上をはかり、売り上げアップにつながるヒントに満ちた時間となりました。