【地域を編集する学校 受講生記事】新富町に眠っていた1500年前の歴史とは?
<県内唯一の埴輪(はにわ)はここにある!>
新富町総合交流センター「きらり」内にある新富町資料館。館内に並ぶ埴輪の数々は、実はすべて新富町にある古墳から出土したもの。
宮崎県内には約2000基もの古墳があるといわれています。西都市、宮崎市生目地域と合わせて、新富町にもたくさんの古墳が。
町内にある207基は「新田原(にゅうたばる)古墳群」として国指定の史跡になっています。その中でも154基が集まっているグループは「祇園原古墳群」という名前がついています。
館内には祇園原古墳群の中で4番目に大きい「百足塚(むかでづか)古墳」から出土した埴輪が展示されています。実は県内でも埴輪が出土した古墳は2000基のうち50基程度しかありません。
さらに人の形をした「人物埴輪」をここまで復元できたのはこの「百足塚古墳」だけなんです!
<埴輪からは当時の様子が想像できる>
写真の左に写る女性の埴輪は衣服をめくって性器を露出させ、踊りながら神がかりしている姿だといわれています。真ん中の女性埴輪は両手を合わせ、祈るようなポーズです。同じ女性の埴輪でも、ポーズや制作目的が違っているようです。
左奥に見えていたのは「太鼓形埴輪」。なんと太鼓が単体として埴輪になっているのは「百足塚古墳」が全国唯一なのです!近くで見ると材料に使われた粘土の質感がリアルに感じられます。
また、全ての埴輪の仕上げでは表面をならす作業があり、それによって一定の方向に筋の模様が入るのですが、その向きで埴輪を作った人の利き手も分かるというから驚きです。
同じ形の埴輪が生産されていくと、後半になるほど雑な作りになっていることもあり、製作者の性格も分かって面白いです。埴輪を通して当時の人々に思いを馳せることができました。
<埴輪復元までの道のり>
平成9年度から発掘調査が行われた「百足塚古墳」。埴輪をヒントに古墳の全体像などが推測されていきます。墳丘には器のような形をした「円筒埴輪」が1000以上も並べられていたと考えられています。
古墳の西側からはたくさんの「形象埴輪(人物や動物の形をした埴輪)」が出土しました。その数は60個体、範囲は40メートルに及び、これは西日本でも有数の規模を誇るのだそうです。
新富町の古墳に詳しい樋渡将太郎(ひわたし・しょうたろう)さんにお話を伺いました。
筆者「埴輪が出土した、と言ってもたくさんの欠片の状態なんですよね。どうやって復元するんですか?
樋渡さん「近い場所にあれば同じ埴輪であることが多いので、それを考慮しながら組み合わせて復元していきます」
筆者「まるでパズルみたいですね。作業中はどんな雰囲気なんですか?」
樋渡さん「最初は同じ埴輪の欠片だと判断もしやすく、作業も進めやすいです。でも後半になると、どの埴輪ともくっつかない欠片が出てくるんですね。1日1個くっつくかどうか、ということが続いた時もありました」
筆者「それは大変ですね…。ここに飾ってある埴輪は、まさに汗と涙の結晶なんですね。でもそんな苦労を乗り越えられたのも、やっぱり『古墳が好き!』という気持ちがあったからでしょうか?」
樋渡さん「そうですね。古墳は学生時代からずっと好きです。というより、惹かれる何かがありますね」
筆者「たとえば、どんなところに惹かれますか?」
樋渡さん「エジプトのピラミッドを作った当時の人たちって、まさかそれが将来、国の産業を支えるシンボルになったとは思ってないと思うんです。同じように古墳もこの時代まで残ることは想定されていなかったかもしれません。それでも今、私たちが観察し、調査することができる。それってすごいことだと思います」
筆者「古墳の魅力とその凄さは『残ってきたこと』にあるんですね」
<現代まで残ってきた古墳たち>
新富町の古墳の魅力はなんといっても「身近なところ」。写真に移る民家の奥に見えるこんもりした丘。これ、古墳なんです!
樋渡さんいわく、古墳は自然の中にあるため手入れも大変なのだそうですが、こちらの古墳は近くの民家に住んでいる方々が自らボランティアで草刈りなどをしているのです。
古墳は大王や首長が眠る「お墓」です。私たちが先祖のお墓を大事にするように、当時その地域に生きていた人々もきっと古墳を大事にしたことでしょう。
今から1500年以上前に作られた古墳を、今なお大切に守っている人々がいることに悠久の歴史を感じ、胸が熱くなりました。
新富町の小・中学校では、遠足や「地域を学ぶ」というテーマの授業で地元の古墳について触れる機会が設けられています。
古墳が作られたのは遠い昔の話。しかし古墳が形として現代に残っている以上、この地域に生きていた人が過去にいたことは確かです。すぐ身近に古墳があることで子どもたちはこの町の歴史に思いを馳せることができ、過去とのつながりを感じられるのではないでしょうか。