夢は北米で焼きイモ屋!?元デザイナー“だからこそ”できるサツマイモ農家の挑戦 

異色の経歴を持つ農家がいるらしい、と聞きつけてやってきたのは、航空自衛隊新田原基地の南側。ちょうど収穫直前のサツマイモ畑が広がっていました。 

「こんにちは!サツマイモの写真撮りますよね?どれが大きいかな〜」とさっそく掘り出してくれたのが、 噂の人物・GOOD PEOPLESの藤井武雄さんです。 

農家だけど、通信機器もソフトも自分で作っちゃう!? 

就農して5年目という藤井さんの気になる元職業は、デザイナー。ですが、デザインに限らず、IT企業でECサイトの開発をしたり、飲食店の立ち上げやホテルの企画・運営に携わったりと、豊かな経歴の持ち主です。 

「畑違いの出身だからこそ、自分の強みが活かせると思ったんですよね」と語るとおり、藤井さんは“何でも自作してしまう”のが得意なのですが、自作のレベルが高いんです! 

たとえば昨年作った「汎用小型移動通信機器」。畑のどこでもWi-Fiを飛ばせる、持ち運び可能な代物で、この機器のおかげで畑の気温や日射量をデータとして取れるようになりました。データが集まったら、その日の天候や苗の状態に合わせた水やりの自動化を実現したいと考えています。 

こちらが汎用小型移動通信機器。カメラ用の三脚を使ったことで機能性UP(藤井さん提供)

また、広大で複数に分かれている畑の様子や作業の進捗を記録・共有するために、独自の方法を考案。 Googleカレンダーに書き込んだ情報がスプレッドシートに蓄積され、自動的にグラフ化されるため、誰もがひと目で現状や課題を把握できます。 

実際のグラフ。かかった時間や作業効率、畑ごとの収量が一目瞭然(藤井さん提供)

どうせ自作するなら、かっこよく、安く、最高のものを!と思って、ソフトやアプリを活用して作りました。農業は、植えて育てて収穫するというサイクルを、1年に1回しか挑戦できませんから、データを活用してしっかり改善していきたいです」 

他にも、サル対策としてマムシステッカーを作成。錯視により本当に動いているように見え、サルによる被害が激減したそうです。 

錯視を利用したマムシステッカー。実物は人間もびっくりするレベル!(藤井さん提供)

 残念ながら葉が生い茂ると、ステッカーが隠れて効果がなくなってしまったため、今はサルを追い払うための訓練を受けた犬「モンキードッグ」の導入を検討しているのだとか。 

「スマート農業に興味はあるけれど、来年は原点回帰して動物を活用してみようかなと。モンキードッグだけでなく、雑草対策としてガチョウの力を借りて除草できないかと考えています。国内でのガチョウの除草利用はほとんど例がないので、新しいチャレンジです!何よりおもしろそうでしょ(笑)」 

どん底だった会社員時代から一変。知識ゼロから農業を頑張れた理由 

自身の特技を存分に活かしながら農業に勤しむ藤井さんですが、なぜサツマイモ農家を始めたのでしょうか。 

就農前は、友人に誘われてジョインした、東京都のホテル関連会社で役員をしていた藤井さん。やりがいはあったものの「とにかく激務だった」と振り返ります。 

「2年で従業員が5人から40人になるほどの会社の成長スピードについていけず、自分をだんだん追い込んでしまいました。毎日『楽になりたい』と考えるほど精神的にどん底で……。かなり危ない状態だったと思います。そんなとき、父が農業をしないかと声をかけてくれたんです」 

実は藤井さん、新富町で生まれ育ち、祖父、父と続く農家の生まれです。しかし幼少期に畑仕事を手伝ったことがある程度で、農業の知識や経験はゼロ。しかも就農を決断したのは、3人目の子どもが生まれた直後でした。それでも脱サラして農業の世界へ飛び込むことを決意します。 

「このまま会社で働き続けたら危ないとわかっていたんでしょう。妻は就農に反対もせずついて来てくれました。いや、僕が有無を言わさず連れて来ちゃった、というのが正確ですね(笑)」 

こうして実家の畑を受け継ぎ、サツマイモ農家として再スタートを切った藤井さん。慣れない農作業でへとへとになる日々でしたが、「間違いなく会社員時代より生活水準が高くなった」と語ります。 

「農業って、自分の裁量で全部決められるじゃないですか。子どもと過ごす時間をたっぷり作れるし、家族と仕事もできる。くったくたになるまで体をたくさん動かして、家族と一緒に食べるごはんのおいしさは、何事にも代えがたいです!」 

家族と一緒に。本当に楽しそう!(藤井さん提供)

海外進出も視野に。新しいサツマイモ農家のあり方を模索中 

藤井さんは現在、焼酎用の品種「黄金千貫」をメインに栽培していますが、今後は「紅はるか」など焼きイモによく使われるサツマイモへ切り替えていきたいと考えています。 

「質より量の黄金千貫で収入を上げるなら、畑を広くするしかありません。でも僕は畑を広げたくないから、少ない収量でも価値を上げるために、加工や販売まで手がけられるサツマイモを増やしたい。そして、海外へ勝負しにいきたいです!」 

湿度と温度を適度に保てば1年熟成できるなど、サツマイモは輸出可能性の高い農作物なのだとか。また、国が2030年の農産物輸出額5兆円を目指しており、さまざまな施策が行われています。藤井さんは、アメリカに住んでいる友人に「焼きイモは汚れないファーストフードだね」といわれたのをきっかけに焼き芋の可能性を感じ、北米の輸出について学ぶグループに所属しているそうです。 

他にも「デザイナーとしての知見を活かして、農業に関するサービスを企業とコラボして開発したい」など、夢とアイデアが次々あふれてきます。ほんとに農業がお好きなんですねと言うと、ニカッと笑った藤井さん。 

人間らしい生活をくれた農業は、僕にとって“救い”なんです。だから日々考えてますし、今後も考え続けたいと思います。どうしたら、農業をもっと憧れる仕事にできるかなって!」