生まれ育った町のために自分ができることを~新富町商工会 清俊文さん
夜中に交通事故。その時救ってくれたのは…
新富生まれ、新富育ち。実家は保険の代理店。事務所を兼ねた自宅で育った清俊文さんの幼い頃の記憶といえば、両親が毎日夜遅くまで仕事をしていて、遊んでもらった記憶もあまりない、というものだ。さらに、お客さんが絡む事故があろうものなら、父親は雨の日であろうが夜中であろうが現場に出て行くことも。夜もゆっくり眠れない仕事。そんな両親の背中を見ていたので、この仕事だけはやるまいと決めていたそうだ。
そんな清さんが、宮崎市内の会社に勤めて間もない二十歳そこそこの頃、夜中に追突事故を起こしてしまった。「ブレーキ痕が無かったけど、居眠りだったんじゃないの?」警察にそう問われて不安になった。ブレーキはたしかに踏んだはず…でも自分ではそこまで確認できず不安でたまらなかった。
そんなとき保険担当者から、「現場を見たけど、しっかりブレーキ痕は残っていたよ」と言われてほっとした。自分が大変な状況に置かれたとき、自分のことを信じてくれる人がいるということにどんなに救われたことか。その保険担当者が実は清さんの父親、清俊明さんだった。それまで、大変なだけと思っていた保険代理店の仕事が、大変ではあるが、人の役に立てる素晴らしい仕事だと気づいた瞬間だった。
その当時、俊明さんは50代後半。俊文さんは家業を継ぐのであれば、近くに教えてもらえる人がいるうちにと、決意を固めた。
時間をかけて話して、初めて知った新富の魅力
清さんは、平成29年4月から新富町商工会青年部の部長を務めている。任期は2年で3月現在、ちょうどその半分を終えようとしている。清さんは今年度から青年部の事業として新しい試みを2つ始めた。
1つは、町内の5つの小中学校の前で、月1回のあいさつ運動を行うというもの。 2つの小学校と2つの中学校、そして小中一貫校の校門の前に、数人の青年部員たちがお揃いのジャンパーを着て、元気よく子どもにあいさつを行う。
清さんがこの活動を始めて気づいたのが、子どもたちがみんな自分からあいさつをしてくれるということ。最近は不審者からの声かけ事例などもあり、知らない人と話さないようにと親からも言われているので、清さんも子どもたちの方からあいさつをしてくれたのにはびっくりしたそうだ。これは、どの学校のあいさつ運動でも感じているそうだ。
もう一つは、青年部の広報紙「よまんね」の発行。宮崎弁で「読んでみませんか」という意味のタイトルだ。月1回、A4の両面刷りで町内の全世帯約5000世帯に配布している。青年部では、これまでも「うめのみ」という広報紙を発行していた。しかし「うめのみ」の発行は年に1回、内容も青年部の事業報告やメンバー紹介を行うようなもので、誰もが見て面白いと思えるようなものではなかったそうだ。
青年部広報紙「よまんね」の紙面。思わず手に取りたくなるタイトル
そこで、「よまんね」では、片面に大きくタイトルを書き、もう片面で、町内で面白い活動を行っている人に聞いた話を、気軽に読めるようなレイアウトで掲載するようにした。現在Vol.9まで発行しており、町民の皆さんからも好評を得ている。
清さんはこの活動からも気づいたことがある。しっかりと取材のための時間を設けて話をしてみると、それまでは気づかなかった新富に住む人の魅力に気づくことができるようになったというのだ。いろんな人に話を聞いてきたが、その誰もが新富にとって魅力的な存在だった。
強力な協力的サポーター「こゆ財団」発見!
清さんには、残り1年の任期の中でもう1つやりたいことがある。それは、青年部ブランドの商品開発だ。現在新富町の商店街前では国道10号線の2斜線化の工事が進んでいる。ただでさえ通過されていた商店街が、2斜線化によりスピードがでるようになればなお通過されかねない。
町外の人に「せっかく新富を通るんだから、ちょっと寄り道してアレを買っていこう」、「町内の人にはアレをお土産に持っていこう」と思えるような新商品を開発したいと考えている。
幸い、新富町には清さんが青年部長になったのと同じ時期に発足した「こゆ財団」という地域商社がある。清さんにとって、この存在は大きいという。正直なところ、これまで清さんはこゆ財団に対して、ライチを売っているところという認識程度しかなかった。しかし、先日「よまんね」の取材で、こゆ財団の理事である岡本啓二さんの話を聞いて、ライチのブランディングにかけるこゆ財団の情熱とノウハウのすごさを知った。「こゆ」財団でありながら、「こゆ」にはいないヒトと組み新しい価値を生み出していることにとても感動し、可能性を感じたそうだ。
※こゆ=児湯。新富町は宮崎県児湯郡にある町。
こゆ財団の岡本理事を取材した記事
商工会青年部とこゆ財団。組織は違えども目指すところは一緒だ。「生まれ育った町のために自分ができることをやりたい」。こゆ財団という追い風を得た清さんの挑戦はこれからが本番だ。