• 2018.03.06

【地域を編集する学校 受講生記事】Café Kiitosのあるまち 宮崎県新富町のカフェ(2)〜使命〜

2:使命

新富町。ここは、宮崎県のちょうど真ん中あたり。日向灘に面し、県庁所在地宮崎市の真北に位置している。
太平洋から吹く風と平野独特の広々とした開放感。どこまでもまっすぐな海岸線にさんさんと降り注ぐ太陽の影響か、そこに暮らす人からもどこか穏やかでホクホクとした印象を受ける。

新富町には航空自衛隊の新田原(にゅうたばる)基地がある。
毎年、子どもを持つ核家族が越してきてはまた出て行く。
地元ではない場所での子育て。
ただでさえ大変な母親業なのに、近くに気楽に頼ることが難しい環境での子育ては、放っておけば次第に孤立していく。

「自衛隊で越してきている家族を見ていると、懐かしくて。」

そう振り返るイスエさんも、例外ではなかった。周りを見渡すと自分だけじゃなく、たくさんの母親たちも同じような悩みを抱えていた。

だけど、ぐちぐち言っていても始まらない。
その思いをバネにして前へ進んでいけるのがイスエさんのすごいところだ。

「子育て中のお母さんが楽しんでないとうまくいかないと思いません?イライラって子供にうつるんですよね。
自分が好きなことをしたり、買い物したりすることでストレス発散になるし、そうすればお母さんて優しくなれると思うんですよね。」

カフェ経営の傍ら、3年前から、毎年海の日には「きらりマルシェ」を開催。秋には「きらり音楽祭」を開いている。
宮崎には手作りのものを作る作家さんも多く、前回の「きらりマルシェ」では40店舗が出店。1,500人もの来客で賑わった。
人口17,000人弱の町に、その1割近い数の人がきらりに集結したのだ。

「もう大盛況だったんです!ママたちが楽しめるようなワークショップを企画しました。続けることに意味があると思うから、毎年やろうかなって思ってます。」

手作りのものに込められた愛情に触れられる場所、それから、子供たちが生の音楽に触れる機会をつくりたい。その思いでイスエさんは邁進する。

お母さんの背中を押せる存在でいたい

ところで、そんなイスエさんも3児の母。
7歳、5歳、3歳のやんちゃ盛りの子どもたちを育てながら、なんでどうして、このバイタリティを保ち続けられるのか。問いかけずにはいられない。

「子どもが小さいときは寝ている間にベーグルを作っていました。起きたらおんぶして(笑)。旦那の実家も忙しくて頼れないし、子どももママじゃなきゃダメな時期だったんです。」

イベントに出店するときもいつも3人を連れて出かけていた。

「そこまでして!って言われますけど、私はそこまでしてもやりたいんです!ずっと家に閉じこもっているタイプじゃないし、イベントにいけば同じ雰囲気のお母さんにも会えるかなって思って。」

イスエさんの返答はいつも軽やかだ。

そんな彼女でも、うまくいかないこともあった。せっかく作ったパンを焦がしてしまったり、長女は女の子なのに顔にやけどをさせてしまったことも。

「たくさん失敗はあるんですけど、自分で納得してやると、やったぞ!っていう達成感がありますよね。そいういうのが好きな人は、とにかくやりたいんですよ。」

今でも、これがやりたいけど子どもが小さくてできない、といった相談をされることもある。
そういう相談を受けると、自分がやってきたことは間違いじゃなかったんだって思える。

一歩踏み出せないでいるお母さんの背中を押せる存在でいたい。

思いの炎は必ず飛び火する

パワフルで熱い思いを抱えながらもスキップしているように軽やかな人をみていると、周りは自分にも何かサポートできないか、と自然に思えてくるものだ。

思いの炎は必ず飛び火する。

そんなイスエさんに、旦那さんの両親も理解を示してくれた。
旦那さんの実家の家業であるきゅうり農家を継ぐという形で返ってきたイスエさん夫妻だったが、あっという間に予想外の展開に。

「はじめはきゅうり農家と両立しながらゆるくやっていこうと思っていました。でも蓋を開けてみるとすごく忙しくて!
パン、スイーツ、スープを全部手作りで作っているんですけど、1人でやるのは大変で。私が倒れちゃったり、元気なさそうだったらお客さんは来ようと思わないですよね。」

そんなこんなで旦那さんはきゅうり農家をやめてカフェ専業となった。
カフェ経営以外にも、ふるさと納税の返礼品やネット販売の運営、発送業務、仕込み。ほかにも、子どものお迎えなど、裏方の仕事に子育てにと協力的にやってくれる。
今では、旦那さんとイスエさん、それからスタッフ5人の計7人でお店を回している。

みんなの協力なしではやれなかった。みんなの力が合わさっているからお店をやっていける。
それにちゃんと気付けているイスエさんだから、周りもサポートしたいと思えるのだろう。

「もう、ありがたすぎて!」

聞きそびれてしまったけど、この気持ちがそのまんまお店の名前の由来になったのかもしれない。


つづく
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