荒れ放題の竹林を宝の山に。早起きは3文の得どころじゃない!~タケノコ生産者 中山秀雄さん~
タケノコ生産者の中山秀雄さんの作業場を訪ねると、既に山のようなゆがきタケノコがありました。薪を使って、大きな釜でゆであげます。訪ねた時間は夕方になっていましたが、中山さんは「どれ、もうひと掘りしようかい」と、一緒に山に連れて行ってくれました。新富と高鍋の境辺りの竹林は、毎日、丹精込めて手入れしていることが分かる、すがすがしい竹林でした。
大切に丁寧にタケノコを掘り出す
あ、あった! ここはモウソウチクの竹林。皆さんは、土からちょこんと出たタケノコの頭を見つけることができますか? 私はいまいち、鈍いのですが…。一緒に行った“山ガール”は、すぐに目に飛び込んでくるようで、早速、中山さんから鍬を借ります。
「まあ、まず見せるわ」と、中山さんが直々に指導。プロの中山さんの掘り方は、それはそれは丁寧です。まず、タケノコの頭の周りに鍬を入れて掘っていきます。タケノコの下までしっかり鍬を入れ、周りの土を軟らかくするのです。土が絡みついている根っこを切り離して、いよいよ狙いを定めて最後の一撃。50cmはあろうかという大きなタケノコが掘れました。
掘った後にできた穴も、きちんと処理をします。穴に草を入れて埋めるのです。これが腐葉土になって、また豊かな竹林を作ってくれます。
10年かかって荒れ放題の竹林を美しく
竹林の中は、一歩足を踏み入れると、ふかふかと柔らかな土に驚きます。竹林って、こんな感触だったかな? そう感じて尋ねると、やはり中山さんは並々ならぬ苦労をされていました。「野放しで荒れ放題だった竹林を、ここまでにするのに10年かかった。この時期は毎日、掘らないとダメ。春は3月20日から掘り始めて5月いっぱい、100日通うよ」と中山さん。
荒れた竹林は、竹の根が絡み合い、タケノコが伸びる隙間もなくなる上、根が引っかかって掘れなくなってしまうそうです。元々はそんな状態だった竹林。「日当たりの良さが大切だから、やっぱり手入れが大事。タケノコ、作物っていうのはみんなそうだけど、昼間に太陽の栄養を吸って、夜に太るとよ。だから、朝、来んといかんとよね」。
すべてが無駄なく循環
春はもちろんですが、ほかのシーズンも、手入れを欠かしません。タケノコの時期が終わった後に、小さい竹がいっぱい出ます。それを切ったり、夏は伸びた下草を刈ったりする作業をしています。
大きく伸びすぎた竹は、切り倒して乾かし、焚き物にしています。脂分の多い竹は、火力が強いのだとか。タケノコを炊くのにもぴったりです。切った竹は焚き物に、枯れた草は腐葉土に、この竹林で何も無駄なものはなく、しっかり循環ができていました。
「こんないい竹林は、そうそうないと思うよ。ちゃんと手をかければ、ちゃんとお金も生み出せる。じっとしてるだけじゃなくて、自分で動いていろいろできることがある」。
毎朝6時から、1日70~80本を掘り上げる
中山さんのタケノコは、新富のJA直売所や佐土原の直売所に卸しています。その数、ハイシーズンは1日70〜80本。毎朝、6時ぐらいから掘っています。「朝日が差してくると、タケノコの頭が黄金色に輝いてね。ウグイスとかメジロの鳴き声も響いて、そりゃあ気持ちいいよ。早起きは3文の得どころじゃないよ」と笑います。「それにここは地面がふかふかだから、歩いても疲れないの。この斜面を歩けば、健康のためにもいいやろう。ここを大事にしていきたいね」。
早速、いただいて帰ったタケノコをゆがいて、タケノコパスタとタケノコご飯を作ってみました。掘りたてのタケノコは、えぐみがなくて、香りがよくて、春という季節に心から感謝したくなる味でした。
「みんなに、おいしいものを食べてほしいわ。それが自分の活力になれば、言うことないやろ」。そんな中山さんの想いと、伸びゆく竹の栄養を丸ごと、いただきました。