年間150,000串以上。時代と味を引き継ぐ、人気の「新富焼き鳥」- 椎乃実

食感に弾力があり、噛むほどに肉汁があふれる大ぶりの「せせり」の焼き鳥。

「せせり」とは部位的には鶏の首の部分を言い、とてもよくしまった筋肉質のプリプリの身です。最近では、なかなか量が取れず非常に人気のある部位になっています。

その「せせり」の焼き鳥一本で30年以上、地元の新富町で愛され続けている焼き鳥屋さんがあります。長年、地域に親しまれ続ける焼き鳥屋「椎乃実」を切り盛りしている椎春子さんにお話を伺いました。

手間ひまを惜しまない

「昔からこの辺りでは、飲み会や壮行会で親鳥やせせりをよくテーブルに出していたんですよ。それが新富の名物。随分住民に浸透していて、もともと馴染みが深かったんですよ」と笑顔で語る春子さん。

町内で定評のあった焼き鳥屋を営んでいたお師匠さんから焼き方とタレの作り方の直接指導を受け、味を引き継ぎました。

せせりは、国産の中でも宮崎産と鹿児島産のみを使用し、春子さん自身が一本一本丁寧に手作りで串に差しています。その数は1日に400本を越えることも。

こだわりのタレを2度づけする

特にタレは焼き鳥を完成させる命。秘伝のタレは、調味料の銘柄にもこだわり、毎日手作り。甘すぎず、辛すぎず、焼き鳥とベストマッチする独自のブレンドでその味を創業当時から守っています。

焼き方は、生の状態でタレにくぐらせ、焼きあがったところでもう一度タレをつけます。生でつけることでタレがしっかりのり、味が染みて美味しいといいます。かつてより、せせりの需要が高まり、仕入れ値が高騰しているが、「変らずみんなに食べてほしいから」と可能な限り昔のままリーズナブルに値段は抑える努力を続けます。

「絶妙な火加減の調整が必要なのよ」

待っている人たちの期待に応えたいから

数十年前、新田原の航空祭が始まった頃から、出店していて、最も多いときで、串4,000本を準備して、会場内でひたすら焼いたとのことです。

毎年、県外から来場し、広い会場の中で、店の場所を探し当て立ち寄ってくれる常連のお客さんがいて、その存在もこれまでお店を続けてこられた原動力に。

師匠から受け継いだ焼き器、30年以上使用。イベントへ出店する際は現地まで運ぶ


暑い厨房の中で終始笑顔が絶えない春子さん

隣町から地元の祭やイベントなどへ呼ばれるが、自分の体が動くうちは、呼ばれたら可能な限り期待に応えたいとの思いが強く、「椎乃実の焼き鳥を食べたい」と言われるとじっとしていられないと春子さんは笑います。

町内にある新田原基地。異動して全国にいる隊員たちに思い出の焼き鳥を届けたい

「おばちゃんしょうゆが変った?」

町内のプールにお店を出店しているときに一度だけ醤油を変えてしまったことがありました。「おばちゃん、醤油変えた?いつもと違うよ」と小さな子どもが言ったといいます。「子どもが食べて美味しいというものは、美味しい。子どもが言うのが本当よ。」それ以来、醤油の銘柄も変えないことにしていて、地元の老舗の醤油屋以外のは使いません。

秘伝のタレはこだわりが凝縮している

「たまにどんぐりを買いにお店に来る人いるとよ」。屋号の「椎乃実」は、どんぐりの意味。たまに勘違いして来店する人がいるといいます。ただそこに持たせた意味は、苗字由来の「椎さん」の「実」、硬いどんぐりのように、しっかりとした実のある味を守っていきたいという決意が、お店の名前にも、込められています。

この味を残していくために

「最近体がきつくなってきたんよ」、休みなくほぼ毎日お店に出て、夕方4時からの開店前に朝から串打ちなどの仕込をおこなう春子さん。

その本数が以前に比べて減ってきたといいます。「それでも常連さんが買いに来てくれるから頑張らんといかんとよね」と待っているお客さんの期待が力になるそうです。開店時に学生だった人が今は、息子(娘)が出来、親子2代に渡って、贔屓にしてくれるとも。

「孫に引き継ぐその日までは 気合入れて頑張らんとね」

この伝統の味を自分の代で終わらせたくない。伝承していきたいという願いが強い春子さん。

一緒に住んでいる孫から「自分がこの味を継ぎたい」との申し出に「一度は外に修行へ行かせんとね」と笑いながら、にっこり嬉しそうです。暖簾を渡すその日まで、出来る限りのことをやってしっかり味を守り、頑張り続けることを覚悟しています。

長年にわたってせせりの焼き鳥づくりへ情熱をかけてきた椎さんの頑張りによって守られてきた伝統の深いせせりの味わい。そして地元の人や県内外のファンから愛され続けるこの味を、一度は味わってみてはいかがですか。

〒889-1402 宮崎県 児湯郡新富町 三納代2327【地図】
電話 0983-33-3475
定休日 不定休