

「安くてうまい!」JAこゆ牛が売れるワケ〜児湯地域の肥育農家を牽引する「壱岐ファーム」専務に聞く〜
航空自衛隊新田原基地がある、宮崎県新富町の高台。お茶やサツマイモなど畑作がさかんなこの地は、牛の肥育農家が点在する場所でもあります。
規模、実績ともに児湯地域を代表する「壱岐ファーム」
新田原基地から西へ数キロ、緑豊かな場所に牛舎を構える「壱岐ファーム」。社長の壱岐浩史さん夫妻と、次男で専務の秀隆さんに加えてパート2人の5人体制でシフトを組み、日々丹精込めて育てる和牛が約680頭。児湯地域トップクラスの大型経営に取り組んでいます。
規模の大きさだけではなく、評価の高い牛を育てることでも周りが一目置く存在。昨年は第60回宮崎県畜産共進会(県畜産振興協議会主催)で8年ぶり2回目の優等1席に輝いた実績があります。2010年の口蹄疫発生による全頭処分の前年に初受賞していたこともあり、口蹄疫からの復興を強く印象づけ、児湯地域全体で喜びを分かち合った出来事だったのではないでしょうか。
今回、お話をうかがったのは専務の壱岐秀隆さん。
17歳の時、「俺が牛をやる!」と両親に告げたそうで、決心した理由を聞くと「儲かるから(笑)」とさらり。
それならと社長の浩史さんは、当時、子牛はせりで買い付けていたところ、メス牛に人工授精をして肥育の素牛となる子牛を産ませる「繁殖」にも取り組み始めました。繁殖から肥育まで行う、いわゆる「一貫経営」をスタートさせたのは、後継者となる秀隆さんの一言がきっかけだったようです。
ピンチをチャンスに! 口蹄疫後に繁殖頭数を増やし規模拡大
秀隆さんは高鍋農業大学校を卒業後、壱岐ファームはまだ人手が足りているからとまずはJA児湯に就職。畜産課職員として農家を回っていましたが、口蹄疫発生で牛がいなくなり、畜産以外の業務をすることに。
その時壱岐ファーム社長である父・浩史さんは、「これから子牛の相場は上がる。繁殖の頭数を増やすぞ」と、全頭処分で空になった牛舎のメンテナンスや増築に着手。これを機に秀隆さんはJAを退職して壱岐ファームの一員となり、ゼロからの再生に向けて家族とともに力を注ぎました。

壱岐ファームでは、産まれた子牛は1週間で親から離し、人口飼育に切り替える
それから7年。前述したように、県畜産共進会で優等1席の牛を生産するまでになった壱岐ファーム。「頭数も、当時想定した以上に増えていますね。今もまた牛舎を新築しているところです」と秀隆さん。実際に子牛の価格は安かった頃の3倍近くまで上がり、買い付けて育てるよりも経費をかけずに肥育できているとか。まさに逆境からの大逆転劇! 「まだまだ増やしていくでしょうね」と、その勢いはとどまるところを知りません…。
地元住民に良質低価格で提供する「JAこゆ牛」
新富町ふるさと納税の返礼品にも
宮崎県の牛肉と言えば「宮崎牛」ブランドが確立されていますが、宮崎県内で生産された4等級以上の黒毛和牛であっても、素牛が宮崎牛の規定に合わなければ、宮崎牛は名乗れません。そこで新富町と高鍋町、木城町の肥育農家とJA児湯で平成27年に立ち上げたローカルブランドが「JAこゆ牛」です。
JA児湯が肥育農家から直接買い上げて、直売することで中間コストをカット。地産地消をモットーとした「JA児湯農畜産物直売所ルーピン」にて販売されています。味が良く、比較的買いやすい価格の肉が並ぶとあって、地元の買い物客に喜ばれています。

「JA児湯農畜産物直売所ルーピン」内のJAこゆ牛販売コーナー
「うちの牛肉が並ぶと、売れ行きが気になって直売所に足を運びます。誰の肉が売れているとかも、気になりますね」と笑う秀隆さん。売れ行きを日々見ている同直売所の林店長も、「実は店頭に並ぶ肉のほとんどが4等級以上。最近は生産者の名前で買っていく常連客もいますよ」と話します。地元の消費者の反応が直に伝わり、ライバルたちとの攻防戦にもなるこの仕組みに、肥育農家たちは刺激を受けながら生産しているようです。

壱岐ファームを訪問したJA児湯新富支所の担当・松永さんと一緒に
ふるさと納税額を伸ばしている新富町の返礼品としても名を連ねるJAこゆ牛。「その売れ行きがいいのは、価格の割に質が高いことがふるさと納税者たちに伝わっているからではないでしょうか」と秀隆さんは手応えを感じています。こゆ牛の買い付けを担当するJA児湯新富支所の松永さん(写真/左)とも、「牛を選ぶのは松永くん。彼に任せています」と、かつて同じ職場を経験した先輩として見守りつつ、ともに絆を深めているようです。
児湯地域のJAと肥育農家が協力し、消費者が手に取りやすいおいしい牛肉をと奮闘する「JAこゆ牛」。お近くの方はぜひ直売所ルーピンへ。遠方の方は「新富町ふるさと納税」で、知る人ぞ知るJA こゆ牛を味わってみませんか?