

水神様のレンコン 区画入札に潜入~水沼神社春の大祭~
夏はハスの花で満開になる新富町日置の「水沼神社」。冬は、名物・糸引きレンコンの収穫風景が見られます。掘れるのは、地元の、神社の氏子さんたちだけ。そして、どの場所のレンコンを掘れるかという区画割りは、3月21日の水沼神社春の大祭の日に、入札で決定するのです。お祭りと入札に、突撃取材してきました。
江戸時代にレンコンを植栽
まずは、水沼神社について紹介しておきましょう。
神社の創建は天正15(1588)年、今から430年前とされています。代表的な水神様である水波能女神(みずはのめかみ)ら3柱の神様を祀っています。昔から、作物がよく実るよう祈願され、大切にされてきたのでしょう。
拝殿の後ろには、神社所有の湖水ヶ池が広がっています。こちらがレンコンの実りを与えてくれる池です。高鍋藩の7代藩主・秋月種茂が、殖産興業のために大和レンコンの種を持ち帰り、植えたと伝えられています。
繊細な糸を引くホックホクのレンコン、ここでしか味わえないおいしさです。
3月21日は水門を閉じる日
3月21日は水門を閉じる日
3月21日、お彼岸の日、池はほとんど水がない状態でした。実はこの日、大祭の神事が終わると、宮総代長が水門を閉め、再び池に水が貯まるようにするのです。水がいっぱいになってくるとレンコンの収穫も終わり。宮総代長の森幸男さんが「夏は養生する期間。この期間にレンコンが育つんですよ」と教えてくれました。
ちなみに、開門は11月1日。水が抜けるとまた、レンコン掘りのシーズンに入るのです。
献饌にもレンコンが
春の大祭の様子をのぞかせていただきました。いつもは閉じている扉を開くと、鏡が現れました。神事の中で、献饌(けんせん)が奉納されます。お酒に塩、米、餅、鯛、果物、野菜、乾物、菓子が並び、よく見ると、ちゃんとレンコンも奉納されています。
扉の中は、宇都宮正和宮司しか見ることができません。「中には鏡と、水神さんのご神体があるとよ。私しか見られんよ。ここは御開帳もしないから、拝見するのは宮司だけ。掃除の時も、誰も見られない。見たければ宮司になるしかないね」とにっこり。
2人の息の合った型が美しい神楽舞
この日は、日置神楽の1番神楽、敏伐り、面を着けて舞う鬼神、手力の舞の4番を奉納しました。ベテランの氏子さんから、水沼神社氏子の神楽の舞手で一番若い佐山雄樹さんと佐山貴紀さんに激が飛びます。最後は「そうそう。やれば思い出すやろ」と、ねぎらいの言葉がかけられました。仕事を持ちながら練習するのは大変ですが、「みんな隣近所で、親戚みたいな関係です。頑張ってついていかないと」と笑顔です。
宇都宮宮司は「昔は、公民館で神楽やら盆踊りやら、芝居の練習やらをして、焼酎飲んだりしよった。子どもはそこで遊ぶ。今は公民館もお宮も鍵をせんといかんからね。祭りは、地域社会と溶け込んじょった」と話します。この神楽のチームには、昔ながらの世代を超えたつながりがしっかりと残っていました。雄樹さんは、職場の上司に半ば無理やり勧められたのだとか。でも、そんな関係もまた、ちょっとうらやましく感じます。
レンコンの区画入札会へ
13時になりました。いよいよ、神社と同じ敷地にある六反田集会所で、レンコンの区画入札が始まりました。全部で23区画。湖水ヶ池のレンコンを掘ることができるのは、六反田、野中地区の氏子さんたちだけの特権です。
区画は割り振りが決まっていて、金額も書かれています。それをみんなで承認していきます。
水が引く掘りやすい場所や広さによって金額が変わります。ポンプで水をかけながら掘るポンプ掘りや、沖掘りの権利もあります。
今年は、父親から受け継いだ方や、ポンプ掘りを迷っている方(水に長時間浸かるのは、重労働なのです)など、短い時間ながら近況報告の場にもなっているようです。
集まった金額は、水沼神社を守るために大切に使われます。宮総代長の森さんは「神様のレンコンをこれからも守っていかないといかんからね」と、今年1年の豊穣を祈願していました。
おいしいのはもちろん、神様に守られ、地域で大切に伝えられてきたレンコン。ますます愛着が湧いてきました。