ふるさと納税のその先を見据えよう!行政マンも参加した商品開発講座レポート
2019年7月22日新富町総合交流センターきらりにて、ふるさと納税に関わる事業主の方々や新富町の行政職員が参加して『しんとみ小商い塾』が開催されました。
変わるふるさと納税と商品開発の必要性
まず壇上に上がったのは一般財団法人こゆ地域づくり推進機構(略称:こゆ財団)のふるさと納税事業部・通山豪樹さん。改めてふるさと納税について説明をしました。
ふるさと納税は本来、応援をしたい自治体に寄附をすることが目的ですが、返礼品が目的にすりかわり自治体間の競争が激化。2019年6月1日から新制度が導入され、「寄附のお礼の品」は調達金額の3割以下とすること、また返礼品は地場産品(地域内で生産または提供されるもの、またそれらに類するもの)とする、ということが決定・施行されました。
新富町のふるさと納税額は2年前約4億3000万円だったのが、昨年度は倍の約9億円、平成30年度は約20億円と試算されています。ふるさと納税の市場は拡大し、大きな財源となっていることは確かですが、ふるさと納税の制度はいつまで続くかわかりません。
ふるさと納税に頼るのではなく、その先にある商品開発に取り組む必要があります。生産者、事業者と行政が一緒になって開発に取り組み、それを地域の資源としてPRしていくべき。新富町は今後この段階に入っていかなくては、地域の成長が持続できません。
と通山さんがこれからの課題を訴え、いよいよ本日の講座が始まります。
平戸市のふるさと納税を寄附額日本一に押し上げた、元・地方公務員
そんな地域の課題解決のため、招いた今回の講師は『LOCUS BRiDGE』代表・黒瀬啓介さん。
黒瀬さんは平成12年に平戸市役所へ入庁。平成24年、ふるさと納税担当となり、初年度は100万円程度だった寄附額が2年後の平成26年度、14億6000万円で日本一となり一躍有名になったスーパー公務員です。
平戸市はふるさとチョイスにもいち早く参画し、黒瀬さん自身がその運営会社に2年近く出向。外との接点を増やし、大きく視野を広げた黒瀬さんは、2019年3月で平戸市役所を退き5月に独立されたばかりです。「地方にステータスを感じる時代を作りたい!」との思いで、地方と都市、個人と企業、人と人とをつなぐ仕事に携わっておられます。
当時、ふるさと納税に取り組む自治体がまだ少なかったこともありますが、黒瀬さんが担当として行った取り組みには、
- プロのスタイリスト・カメラマンによる撮影→ビジュアル・クオリティーを重視
- 返礼品発送に係る業務体系を一新
- 全国に先駆けてカタログポイント制を導入
- 平戸市公認ネットショップ「マルクト平戸」の開設
- 平戸市ふるさと納税特設サイトの開設(会員制は全国初)
…など、まだどの自治体も行っていなかった手法や考え方を多く取り入れ、実績を上げてきました。また、ふるさと納税の可能性を強く感じながらも、売上金額だけに踊らされない冷静な感覚を持ち続けていた黒瀬さん。常に消費者の目線で判断し、事業者の将来を配慮しながら他との差別化につながる施策に取り組みました。なかでも配送サービスを通常のネット通販並みに高めたことは、平戸市の人気を引き上げた大きな要因だったようです。
興味深いのは、佐川急便との「コラボ段ボール」。平戸市は佐川急便と包括協定を結び、このコラボ段ボールを有効活用することで平戸のブランド化や配送コストダウン、寄附者に対する宣伝効果を高め、双方にとっていい効果をもたらすwin-winの関係を築いたそうです。
「ふるさと納税」の先に描くものは?
平戸市は、ふるさと納税とは別の、平戸市の商品や産物を販売するECサイトを開設。その理由を黒瀬さんはこう話します。
「ふるさと納税と一般の市場は全く違います。ふるさと納税は非日常でありプチ贅沢を感じるところ。ECサイト開設の目的は、“売れないことを学ぶため”であり“売るための方法を学ぶため”だったんです」
平戸市は寄附額日本一となった翌年もぐっと金額を伸ばしますが、その翌年にはなんと10億円も減少。
「右肩上がりに増え続ける市場などあるはずありません。早い時期に寄附額が落ちたので、そのことに早く気づくことができて本当に良かったと思っています。おかげで、じゃあ一般市場ってどうすれば売れるんだろう?と考えることができたのですから」。
行政職員として平戸市のふるさと納税を運営しながら、事業者や生産者と密な関係を築いてきた黒瀬さんは、生産者に向けて、また行政職員に向けてこう語りかけます。
生産者の皆さん、目先の売上(寄附額)がゴールになっていませんか? どんな思いで取り組んでいますか? 目標設定は明確ですか?
行政職員の皆さん、生産者を寄附集めに利用していませんか? 生産者の未来を本気で考えていますか?
あなたは、ふるさと納税でどんな未来を描きますか?
住民と行政の間に信頼関係が築かれ、地域の未来につながる取り組みとして力を合わせて活動できているかが大切だと、黒瀬さんは双方に語りかけているようでした。
モノからコトへの転換期
平戸市は寄附金の使い道をPRし、共感してもらえる仕組みづくりに取り組みました。創業支援事業に力を入れ、Uターンした若者や主婦が補助金を使って起業し成功した事例も紹介してくれました。また商品をしぼって売り方を変えただけでブランド化に成功し、台湾で大ヒットした事例もあるとか。
ふるさと納税だけで終わらせない、行政と企業の努力が必要。目指す思いや取り組みをPRし、それに共感した人たちが寄附をしてくれるような、返礼品がなくても寄附してもらえる自治体を目指すが必要ではないでしょうか。
参加者へ伝えたい思い
スマートフォンの登場を機に社会は大きく変わり、ものすごいスピードで時代は変化しています。そんななか、続いていく事業というのは、常に時代に合わせて変化をしています。
「あなたの事業は、変化していますか?」と問いかける黒瀬さん。
最後に、伝えたい「3つのこと」に思いを込めて話してくださいました。
1つは、多様性を認め合うこと。これまでの常識はこれからの非常識になりかねません。そして、新たな価値を創造してください。売れなくなった、人が来なくなったとすれば、その事業が今のニーズに合致していないということ。どうしたら来てもらえるかを考えることにシフトしていきましょう。さらに、変化し続けること。トライ&エラーを繰り返すことで新たな気づきに出合え新しい価値観に触れ続けることができます。
いろんな人とつながり、情報交換し合いながら、自分たちがどうありたいかを見据えて取り組んでいってください。
参加者からの質問やアドバイスの要望も
約1時間半にわたり、ふるさと納税の先にある商品開発について実体験から熱く語ってくださった講師の黒瀬啓介さん。
司会の橋本さんが講座の内容を振り返りつつ、黒瀬さんに質問や感想を投げかけている間、参加者たちはそれぞれの立場から質問や聞きたいことを付箋に書いていきます。
質問の書かれた付箋をホワイトボードに貼り、いくつかピックアップして直接黒瀬さんから補足の説明やアドバイスをいただきました。
「ふるさと納税の先にあるものをどうやって見つければいいのだろう。誰を頼ればいいんだろう」
という質問には、
「自分の身内や、町内の人など身近な人だけで完結させないで。例えば私にダイレクトに聞いてもらってもいいし、いろんなつながりを遠慮なく利用させてもらうこと。考えや情報を広くシェアしていきましょう」
と、参加者の背中を押すアドバイスをしてくれた黒瀬さんでした。
黒瀬さんと参加者たちで共有した学びの場“しんとみ小商い塾”。今回も内容の濃い充実した時間となりました。