牛舎で牛がリラックスできる、それが美味い牛肉を育てる。ふるさと納税で人気の宮崎・新富町のこゆ牛
「安くてうまい牛肉」として、地元の消費者を中心に人気が高まりつつある“JAこゆ牛”。宮崎県新富町は、このJAこゆ牛をふるさと納税の返礼品として全国にも届けています。ふるさと納税でも、地元の評判を裏付けるかのように、順調に売れ行きを伸ばしています。
「直売所に、ちょうど今うちの肉が入っちょるよ。」
そう教えてくれたのは、JAこゆ牛の生産者の1人、鈴木茂さん(写真上/32歳)。
直売所とは、新富町役場そばにある“JA児湯農畜産物直売所ルーピン”のこと。JAが肥育農家より直接牛を買い、カットしたJAこゆ牛がここの販売コーナーでのみ販売されています。取材した当時直売所に並んでいたのが、鈴木茂さんとその家族が生産した牛肉でした。
今回は、新富町の若き肥育農家である鈴木茂さんにお話をうかがいました。
ゆったり休む牛が、いい肥育の証
祖父の代から牛の肥育農家を始め、現在は両親と茂さん、研修生1人で育てる牛は、肥育牛120頭、繁殖牛(メス)120頭、子牛50頭の約290頭。
牛舎をのぞくと、牛の足元にはおがくずが敷き詰められ、その上にゆったりと横になる牛たち。
「うちの牛舎はきれいやろ? こうやって牛がのんびりしていることが、いい肉牛に育つために欠かせんとよ」と茂さん。
暑い日は牛舎の屋根をスプリンクラーの水で冷やしたり、ファンをまわして熱がこもらないようにしたりします。
牛の世話が済んだら、牛から離れてそっとしておく。これも茂さんのポリシー。
とにかく、牛がのんびりとリラックスできる状態を作ることが、いい肉牛を育てるために大切だと、茂さんは話します。
牛舎の牛を見てみると…、確かに、脚を折り曲げ、安心してゆったりと過ごしている様子が伝わりますね。
口蹄疫発生後、人との「出会い」が転機に
そんな茂さんも、駆け出しの頃はよくわからないまま牛を育てていたそうです。
「本当に成績が悪かったとよ」と苦笑い。A5等級が最高等級とされる牛の格付けで、A3等級という決して高くない評価の牛ばかりを生産していた20代前半。そして25歳の時、口蹄疫が発生して全頭処分…。やっと牛が飼える状態になり、子牛の買い付けに行った宮崎県串間市で、茂さんの転機となる「出会い」が待っていました。
当時の茂さんからは、驚くほど評価の高い肉牛を生産していた、串間市の肥育農家の人たち。「当時どうすればいいかわからんかった自分に、串間で出会った人たちは、何でも全部教えてくれた」そうです。なかでも茂さんは、ある人のエサの配合や与え方を丸ごと真似て牛を育てたら、その翌年にぐっと成績が上がったと言います。
「2年かけて育てる牛の飼料を変えることは、リスクをともなう事。でも、牛と飼料がバッチリ合ったら、肉質がぐんと良くなる。これは間違いない!」
“孝則(父)の息子”と呼ばれていた自分。それを不快に感じながらも、見返すために誰かに教えを乞うこともしなかった茂さんでしたが、串間の肥育農家さんたちとの出会いをきっかけに、牛に向き合い真剣に肥育に取り組むように。
試行錯誤の末、行きついた今の飼料。牛の調子を汲み取ることもできるようになり、育て方が少しずつわかってきました。「あの時、たまたまやったけど串間に行って良かった(笑)」。
霜降りの具合は、体内のビタミン量が大きく影響します。ビタミンの量をできるかぎり抑え、しかも牛が体調を崩さないようにバランスをとりながら育てます。次第にA4、A5等級の牛が少しずつ増え、しかも霜降りの最高級である11番や12番も出始めました。
「どの牛が良くなるか、感覚でわかってきた。来年の共進会に出す牛はあれやろうね〜って」。
目指すは「A5等級の12番」!
茂さんが1年間に出荷する肉牛の頭数は約60頭。今年はその7〜8割はA5等級の評価を受けているとか。現状に満足せず、「もっと上を目指すつもり」とさらなる高みを目標に掲げているようです。
「自分も周りの人も、成績が良かった次の年にガクンと落ちてしまうことが多い。そこは気をつけていかんとね」と、冷静な視点も持ち合わせています。
評価の高い牛を生産できていなかった頃、資金面で両親には苦労をかけてしまったという思いを抱きながら、毎日牛と向き合う日々。ときには趣味のゴルフでリフレッシュしつつ、「A5等級の12番」をいかに多く生み出せるか、という茂さんのチャレンジは続きます。