Shintomiから世界へ、価値あるアイデアを発信! 『TEDxShintomi』
TEDの動画を見たことがありますか? あるいはTEDxプログラムに参加したこと、ありますか?
TED(Technology、Entertainment、Designの頭文字)とは、米国発のビデオコンテンツ。“Ideas worth spreading(広める価値のあるアイデア)”のコンセプトのもと、いろんなジャンルのプレゼンテーションを提供しています。その精神を受け継ぎ、フランチャイズ形式により各地で開催・発信されているのが「TEDxプログラム」です。
その内容は後日YouTubeにて世界で視聴可能に。TEDxという冠が付くことで、そのアイデアは世界に拡散されます。
2019年6月30日(日)、宮崎県新富町にある新富町文化開館にて、TEDから公式にライセンスを受けた新富町在住の稲田佑太朗さん(31歳)の発案により「TEDxShintomi」を実現。宮崎県新富町の地から、3人の登壇者が世界に向けてアイデアを伝えました。
TEDx開催に込めた、稲田さんの思いとは?
今回の“TEDxShintomi”開催を試みた経緯を、冒頭に稲田佑太朗さんはこう語りました。
僕は県外の大学に進学したけれど、家族のいるこの宮崎で過ごしたいと戻ってきました。一方で、“宮崎って何もない、やっぱり東京に行きたいよね!” 同級生たちのそんな言葉をたくさん聞いてきました。
宮崎って本当に何もないだろうか? いや、そうじゃない。まだ僕らが何もやっていないだけじゃないか。自分が何か形にできないだろうか…。そんな思いがくすぶっている頃、TEDxの動画を見ていたら、TEDxを開催することができることを知りました。
宮崎でもTEDxができる! もし僕がやったら、“稲田がやったんなら自分にもきっと何かできる”と思ってくれる人が出てくるんじゃないだろうか、と考えたのです。
一歩踏み出すことで、始まる! 変われる!
このTEDx開催を通して、僕はこのことを伝えたいと思いました。
そして、これまでお世話になった方々に恩返しするつもりで、この場を設けました。
宮崎を愛する1人の青年の「何かしたい」「変わりたい」という熱意により、宮崎県新富町が新たなチャレンジの場に。地域商社「一般財団法人こゆ地域づくり推進機構(略称:こゆ財団)」のサポートのもと、“TEDxShintomi”は現実のものに。
今回登壇するのは、齋藤潤一氏(一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 代表理事)、木村昭彦氏(キムラ漬物宮崎工場株式会社 代表取締役)、前野隆司氏(慶應義塾大学大学院SDM 教授)。それぞれが持ち時間16分間に思いを込めてスピーチします。
まずは場を和ませるアイスブレイク
進行は、TEDxShintomiの起案者・稲田佑太朗さん(写真/右)と、新富町地域おこし協力隊の福島あずささん(写真/左)。約50人の招待客が集まる会場の雰囲気を和らげ、登壇者たちが気持ちよくスピーチできるようにと、まずはアイスブレイクから。グループを作って簡単なゲームをやっていくうちに、笑顔と笑い声で会場はなごやかな雰囲気に。
TEDxShintomiスタート!
いよいよ、登壇者によるスピーチが始まりました。
■齋藤潤一氏「シリコンバレー流 持続可能な地域づくり〜お金と幸せのバランス〜」
「“896”とは、何の数字でしょう? 日本で今後20年で消滅する自治体の数なんです」という衝撃的な話題でスタートした、トップバッター・齋藤潤一さんのスピーチ。
毎日のようにイノベーションが起き、とてつもないスピードで変化していく、アメリカのシリコンバレーに留学していた斉藤さん。帰国して目にしたのは、シャッター街と化した我が国の地域の姿…。さらに2011年、東日本大震災が発生。まちは、地域はこれから一体どうなっていくのだろう…。
そんな齋藤さんは、『持続可能な地域づくり』に使命感をもって取り組みます。地域の魅力を「発見」し、「磨く」、そしてその魅力を「発信」する。このサイクルを、うまくいくまでやり遂げることで、“ゼニー(銭)とエミー(笑み)のバランスが取れたまちづくり”=シリコンバレー流の地域づくりができるのだと言います。
“スモール イズ ビューティフル(=小さくて美しい)”。これは50年前にイギリスの経済学者が書いた本のタイトルで、私の活動のコンセプトです。大量生産、大量消費の時代は終わり、人間中心の社会づくりへと移り変わってきました。著書から50年を経た今こそ、“スモール イズ ビューティフル”=小さくても美しい、持続可能なビジネスをもう一度評価するときだと思います。
齋藤さんが代表理事を務める「こゆ財団」で取り組んだ、1粒1,000円ライチのブランド化。それは、発見し、磨き、発信するという流れを繰り返し、成功したビジネスだといいます。
「失敗もたくさんしましたが、行動なくして成功なし! 地域づくりにホームランはありません。小さな成功を1つひとつ積み重ねていくことです。皆さんと一緒に、これからもチャレンジし続けます!!」との言葉で締めくくった、齋藤さんのスピーチでした。
■木村昭彦氏「漬物の魅力を伝える」
昭和26年、愛知県で創業した『キムラ漬物』が、原料となる天日干し大根の確保のため、会社を宮崎県新富町に設立したのが昭和47年。この日は社長の木村昭彦さんが、漬物の歴史と現代における漬物の魅力について語りました。
その昔、海辺に野菜を置いていたら腐りにくく、食べてもおいしかったことから、野菜を海水につけて保存するようになったのが漬物のはじまり。
宮崎では冬になると、漬物用の「大根やぐら」があちこちに現れます。竹を使い何段も組み上げたやぐらに大根をかけ、雨が降ればシートをかけ、晴れたらすぐにシートを外して天日に当てる。寒い日にはやぐらの中で夜通しストーブを焚く。白く美味しく干し上がるよう、2週間昼夜を問わず手をかけているのだそう。
「漬物は塩分が多いから摂り過ぎは高血圧の原因に」と言われますが、天日干しした大根はアミノ酸成分GABAが生の大根より数倍にも増えていて、このGABAは中枢神経を和らげ血圧降下作用が期待できる、と宮崎大学との合同研究によって得られた結果もあるそうです。
塩漬けに始まった漬物は、味噌漬け、ぬか漬けと幅が広がり、さらには浅漬けも登場し、「保存食」から「サラダ感覚」の一品に。発酵食が見直される昨今、乳酸菌がたっぷりの「ぬか漬け」は、やり方によって簡単に誰でも楽しめるようになり人気が高まりつつあるそうです。
そんな漬物、ぬか漬けの良さをどんどん発信し、後世に伝えていく人間でありたい、と訴えて木村さんの登壇は終了。
会場からは、「キムラ漬物さんが販売している“熟成ぬか床”でぬか漬け生活を始めました」との声も。タッパーの中で材料を混ぜ、野菜を漬けるだけ。誰でも簡単に始められるぬか漬けキット、試してみる価値がありそうですね。
■前野隆司氏「“well-being”=幸福とは?」
最後は、「幸福学」研究者である、慶応義塾大学大学院システムマネジメント科・前野隆司教授です。
well-beingとは“幸福”。幸せだと、不幸せであるより「7〜10倍長生き」であったり、「創造性や生産性がアップする」といった研究結果があるそうです。
前野先生は「幸せは目指せるもの」と訴えます。そのために必要な『幸せの4つの因子』がこちら。
「やってみよう」…やらされるのではなく、前向きに取り組む。
「ありがとう」…感謝をしよう。つながりを持とう。
「なんとかなる」…迷ったときは、やってみよう。
「ありのままに」…人と自分を比べすぎない。自分は自分。
さらにもう一つ、幸せにとって大事なことは、
「俯瞰で見ること」と前野先生は話します。
例えば何かを失敗したとして、その失敗した部分や嫌なことにばかり気を取られると、イライラしたり、落ち込んだり…。そんな時、人の視野は狭くなっている、ということなのです。
「その瞬間は仕方がないけれど、できるだけ早くそこから脱出しよう。一歩引いて俯瞰で物事を見ることで、解決策も生まれてくるものです」
幸せは何かの結果でついてくるものではなく、自分から求め、目指せるものであること。前野先生は壇上から世界へ、そう語っておられました。
感銘を受けた、来場者たち
3人の登壇者のスピーチそれぞれに、うなずいたり笑ったり、来場者たちは熱心に耳を傾けていました。どの登壇者に対しても、積極的に意見や質問が飛び交います。
この日一番遠くからの来場者は、岩手県遠野市にある『ネクスト・コモンズ・ラボ』スタッフのこちらの女性。日頃の自身の活動を照らし合わせ、振り返りながら「今日は大変いい学びの時間になりました」と感想を述べてくださいました。
TEDxShintomiフィナーレへ
3人の登壇者によるスピーチが終了し、全員ステージへ。思いを込めて、最後のコメントを述べました。
「笑顔とお金のバランスがとれていることが大事。今日はこれを伝えたかった。“ゼニーとエミーの地域づくり”が全国に、世界に広がっていくといいなと思っています」(齋藤潤一さん)
「漬物は昔から日本の真ん中に、家族の真ん中にあった。時代とともに食卓の様子は変わってきたが、近年発酵文化は世界で広まってきています。漬物を通して発酵食を広める1人として、これからも活動していきます」(木村昭彦さん)
「九州・沖縄の幸福度は高いんです。なにせ人が温かい。宮崎、そしてこの新富に来る度に、人や食べ物、豊かな自然に感動させられます。宮崎は何もないと思っている人は、その考えを今すぐ改めた方がいいですよ。本当に素晴らしいところです」(前野隆司さん)
3人の登壇者たちそれぞれが人生を果敢に生き、手に入れた今現在のアイデアを、この宮崎県新富町からTEDxという波に乗せて発信! その現場を目の当たりにできた、貴重な時間でした。登壇者も来場者たちも、おそらくはスタッフとして参加した人たちも、その熱い約2時間半の余韻に浸りながら“TEDxShintomi”は幕を閉じました。
稲田さんのチャレンジにより、“TEDxShintomi”が実現し、宮崎県新富町から価値あるアイデアが世界に発信! YouTubeで動画配信されたら、ぜひご覧ください。
ざっくばらんにトークセッション!
今、新富町は全国的に注目を集めている地域。「こゆ財団」の活動が起爆剤となり、町内では新たなチャレンジが生まれ、また県内外の人や企業とさまざまなつながりが広がっています。
“TEDxShintomi”終了後、新富町やこゆ財団と関係を持って活動している4人が壇上に上がり、おまけのトークセッション♪ こんな方々が盛り上げてくれる新富町が、おもしろくない訳がない! 歯に衣着せぬ、ざっくばらんなトークで盛り上がりました。