「記事の終わりが、始まり」。『Forbes JAPAN』編集者・井土亜梨沙さんが伝えたいこととは?
なぜ女性はメイクをするのだろう? メイクをしないとどんな気持ちが湧き、まわりはどう反応するのだろう? 1カ月間メイクをしないで過ごし、その時の感情や思考を毎日発信し続けた『すっぴん日記』で注目されたのが、井土亜梨沙さん。
『 「1カ月間メイクしません」仕事にプライベートにすっぴんで過ごすことを決めた女27歳 』(HUFFPOST日本版)
2019年11月16日(土)、新富町総合交流センターきらりにて、井土さんが「人に伝わるメッセージの届け方」という題目で登壇。その後、こゆ財団が開講する宮崎ローカルベンチャースクール第2期生4人が新富町を舞台としたビジネスプランを発表するという、2部構成のイベントが開かれました。人口1万6000人の新富町に、県内外から参加者が集まる学び合う場となりました。
記事を通して人の生き方に影響を与えられる「編集者」の道へ
大阪に生まれ、1歳半でインドネシアへ。昨年までミャンマーに実家があったそうで、「実家に行くのにビザの申請が必要だった」と話す井土さん。父親の転勤により海外での生活経験が豊富で、その反面故郷と呼べる場所がないのだそう。
現在、東京にある『Forbes Japan』に勤務し、海外への取材も数多くこなしていらっしゃいます。ウェブメディアや雑誌などさまざまな場で編集者として力を発揮する井土さんですが、社会人として仕事を始めた当初は全く違う職種にいました。
六本木ヒルズなど複合商業施設の事業主である『森ビル』に入社し、土地の調査と購入の繰り返しで仕事に明け暮れていた頃。「街づくりを夢見て入ったのに、街を見ていないで仕事ばかりしている…」という毎日にジレンマを感じていたそうです。
その頃、井土さんがずっと読んでいたインターネットメディアが、『ハフポスト』。
「働き方や生き方の多様性を教えてくれ、人生の選択肢を提供してくれたのがハフポストでした。記事を通して、人の生き方に影響を与えられる仕事ってステキだなと思い、転職しました」と井土さんは話します。
ふと感じた疑問から生まれる、等身大の記事が共感を得て大反響
メディア経験のない自分が、一体何を発信できるんだろう?
そう思っていた井土さんが最初に書いたブログ記事は、
「社会人3年目の私が、恐る恐る上司に『生理』について話してみた」という、インパクトあるもの。
生理痛の辛さを「カラダの中にボクサーが住んでいて、激しいパンチを繰り返す」と表現。上司にも何でもオープンに話せる性格なのに、生理の悩みを話せずにいたのは、恥ずかしさに加え、仕事を犠牲にしたくないという気持ちも大きかったそう。
そんな井土さんが働きやすい環境を求めて、ついに上司に話すことに。上司は驚いたそうですが、結果、きつい時は自宅でのリモートワークや、人の少ない別の部屋で仕事をすること、また休んでもいい、という働き方の選択肢をもらったそうです。
井土さんは、自分から言葉を発することで環境を変えることができるという現実、また我慢して言わずにいつづけることで周りの理解が進まない、という弊害があることにも気づいたと話します。
この記事は想像以上に反響が大きく、新プロジェクト『Ladies Be Open』を立ち上げるきっかけに。ハフポストでは、女性たちの声を聞き記事にして発信していきました。話しにくいと感じることでも、オープンに話すことで世界は変わる、ということを実証した企画でした。
「生理について女性が語らないことで、男性の理解も進みません。言葉を発しない、メッセージを発しないことの弊害に気づきました。生理だけでなく、いろんなことに置き換えられます。私たちは、発信することで世界を変えられるんです」
『Forbes JAPAN』編集者として井土さんが伝えたいこと
ハフィントンポストのエディターとして、自分自身と向き合うなか気づいたのが、「自分の小さな気づきを発信することで、大きな変化が起きる」ということ。2年半を経て、井土さんは『Forbes JAPAN』へと活躍の場を変えました。
アメリカで誕生した『Forbes』は、現在38カ国で展開中。
“経済は人が作るもの。数字やデータにあふれたメディアばかりでいいのだろうか?”
そんな思いを原点に創刊した『Forbes』は、「人にフォーカスした経済誌」を信念として、ビジネスを通して人の生き方を伝えるメディアです。
特に『Forbes JAPAN』で大切にしているのは“ポジティブ・ジャーナリズム”。
人やビジネスのいいところ、本質に光を当てる。素晴らしいところを掘り起こして伝えることに徹しています。人の目に止まりやすいゴシップや性的な記事が紙面を賑わすことはありません。
「記事の終わりが、始まり」
井土さんは、上司から言われたこの言葉をとても大切にしています。読者が読んで満足する記事ではなく、記事を読んだ読者がアクションを起こす記事を目指しているとのこと。
参加者の一人、新富町の地域おこし協力隊で町の広報誌を改革中の二川智南美さん。
「アクションを起こしてもらうために、具体的にはどんなことを意識して発信していますか?」と質問を投げかけます。
「読者がそれをいつ実践できるかということ、また自分に置き換えたとき『自分だったらこんなことができるな』って思ってもらえるように考えていますね。それは結果だけでなくプロセスの部分においても、です」
文脈づくり+アイディア=世界を目指すチャンス!
“伝える”ということにおける大きな変化が、今、起きています。
井土さんが今年取材に行った「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」。これは世界最大級の広告祭と言われるのに、「広告」という言葉が入っていません。
社会の流れを汲み取り文脈をもたせ、創造性あふれるアイディアそのものは、SNSで拡散されどんどん広まります。これまで広告は「マスメディアにお金を出して、載せる」ものでしたが、「クリエイティビティを生かしたどのアイディアが一番優れているか」を評価するものに変わってきたのです。
2019年で66回目となったこのフェスティバルは、89カ国から3万点以上の作品がエントリーされ、評価も27部門にまで規模が拡大。時代の変遷を象徴していると言えます。
このフェスティバルで、デンマークの無名のファッションブランドが受賞し一躍有名に。評価されたのは、「一切服を売らない」というアイディアです。
そのブランドに、ポーズした自分の画像を送り、ホームページ上で着たい服をクリックすると、その服を自分が着ているかのように加工した画像が送られてきます。新しい服を着たおしゃれな自分をインスタグラムに載せたい、という人々の欲求を、服を買わずに実現。「同じ服を二度着れない」というファストファッションの環境問題と若者の欲求を同時に解決する見事なアイディアが評価されたのです。
映像を使いながら、井土さんはいくつかの例を紹介。そして、これはアイディアさえあれば、誰でも受賞の可能性があるのだと話します。
「環境や社会問題など、今の社会が共感してくれる文脈をつくり、クリエイティビティ豊かなアイディアを発信すれば、誰にでも世界を目指すチャンスが生まれます。SNSの登場で個人が誰でもメディアになれる時代。ぜひ、あなたのアイディアを発信してみてください」。
後半スタート!「宮崎ローカルベンチャースクール」第2期生のプレゼンテーション
後半は、こゆ財団が主催する「宮崎ローカルベンチャースクール」2期生によるビジネスプランのプレゼンテーションが行われました。プレゼンテーターは、2期生の中で高く評価された上位4人。引き続き、井土さんもコメンテーターとして参加しました。
■寺倉聡子さん「世界初、マインドフルネス・ラフターヨガでまちを元気に」
免疫力アップ、脳の活性化(認知症予防)、リラックス効果、ポジティブ思考などさまざまな効用があるとされる「笑い」。笑いを用いて心も充実させる健康法で町を元気に! 「マインドフルネス・ラフターヨガ」を用いたビジネスプランを発表したのは寺倉聡子さん。
とにかく見て体験してもらおうと、インストラクターと化した寺倉さんに会場は一気に飲み込まれ…。「衝撃です(笑)。でも何だか体がポカポカしてきました」と、参加した井土さんもそのパワーに圧倒されている様子でした。
■北垣歩武(きたがき・あゆむ)さん「“新富茶割り”の共同開発を」
お酒をたしなむのが趣味、という北垣さんは、現職もアルコールにまつわる仕事。最近、専門店もあるという“茶割り”に目を付け、新富の特産品である「お茶」を使い、“新富茶割り”の開発プランを発表しました。
茶割り専用のお茶のティーバッグ、専用の焼酎、専用のグラスで“新富茶割りセット”でブランディング。
発表を聞いていた、新富町の茶販売業『新緑園』の黒木社長。「新富の名前のごとく、新しい富が見える内容。ぜひ自分も一緒に考えていけたら」と喜びの声が上がりました。
■葛井祐介さん「お茶染めを使った商品開発で地域活性化」
こちらも新富の「お茶」に着目したプラン。お茶染めの楽しさを実感した葛井さんは、新富町にスタジアムができるJFLサッカークラブの「テゲバジャーロ宮崎」のグッズにできないかと提案。さらに、染めるだけでなくTシャツ用の綿花栽培や裁縫も地域で行い、地域経済を循環させたいとの思いも込めました。
■田中和広さん「新富町から起こす餃子界の革命」
餃子愛が止まらない、都内IT企業に努める田中さん。新富名物となる餃子を作り、町内のいろんなお店で餃子が食べられるB級グルメの確立による町おこしをと、熱く語りました。近くの競合店とかぶらないように「ネギ入りの南蛮スープ餃子」を提案。
お酒が飲みたくなる餃子とは違い、主食になる餃子。車通りが多い国道10号をドライブするファミリー層にもアピールできます。餃子に使う野菜や肉は新富町内で生産したいので、そこは農家さんと要相談。終了後には試食会も用意された、熱いプレゼンテーションでした。
「宮崎ローカルベンチャースクール」は、まもなく第3期が始まります。地域課題をビジネスの手法で解決するため、今度はどんなクリエイティブなアイディアが生まれるのでしょうか。